飛騨山脈のジオのおはなし個別コラムページトップ

飛騨山脈のジオのおはなし

第24章 雄滝・雌滝

鳥も通わぬ滝谷の滝

蒲田川右俣谷の槍ヶ岳に向かう登山道を登り滝谷を横切ると、冷たくておいしい湧き水があります。花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)とよばれる岩石の鉱物成分を多く含んでいます。湧き水の近くの花崗閃緑岩には、「藤木レリーフ」という丸い銅板が埋め込まれています。藤木九三と山岳ガイドの松井憲三が、早稲田グループと滝谷の初登攀を競い同時に成功したのは、1925(大正14)年のことでした。
滝谷は、日本を代表するロッククライミングの場のひとつで、北穂高岳(標高3106m)の山頂直下から蒲田川右俣谷に切れ落ちた谷です。明治期の山案内人の上條嘉門次は、「鳥も通わぬ滝谷」と形容し、この言葉が有名になりました。
名の通り、険しい滝谷にはいくつかの滝があります。滝谷を横切る登山道から上を仰ぐと、雄滝そして背後に北穂高岳の山頂部が見え、圧倒的な高度差の臨場感に息を飲みます。雌滝は、雄滝の左側の支流にあり登山道からは見えません。両滝とも落差は20m、滝の標高は約2000mです。
滝のまわりの岩石は、滝谷花崗閃緑岩です。花崗岩の仲間の岩石で、約100万年前から始まった飛騨山脈の隆起に伴い、地下3kmから上昇し、上部が侵食され地表に顔を出したものです。
滝の豊富な水量は、毎年夏以降まで残る雪渓によりもたらされています。井上靖の小説「氷壁」では、主人公の魚津恭太が滝谷で遭難する場面があり、「雄滝のしぶきが終始雨のように降りかかっている・・・」と表現されています。
なお、滝谷を含む付近の谷は、岩場が多いので、大雨により短時間に増水し、谷を横切ることができなくなります。
(飛騨地学研究会 中田裕一)

トップへ戻る